ガス室

<ガス室>

アメリカ刑罰史上初めてこの窒息死を体験したのは、1924年2月8日、ネバタ州で殺人罪によって処刑された中国人であった。
その約20年後「ガス室による処刑」は、ナチスによってホロコーストの手段として使用された。
第2次大戦後、ナチスのガス室の存在が明らかになると、アメリカのかなりの州が「ガス室」の使用を停止した。
それでもなお、今日「ガス室」を使用している州は7州である。

「ガス室」の原理は単純で、受刑者を完全に密閉した空間に入れ、毒性のある気体を吸わせるというものである。
多くの実験の結果、揮発性毒物の中でも最も効力が大きいシアン化物のガスが選ばれた。
青酸カリと亜硫酸が化合して生じるこのガスは「細胞毒」の部類に属する。
このガスは酸素を血液から細胞へ運ぶ呼吸酵素の働きを麻痺させる。
その結果、細胞レベルでの酸素の利用が妨害され、乳酸が蓄積して組織中毒性無酸素症により細胞が死滅する。
最も影響を受ける器官は、中枢神経系(特に呼吸中枢)と心臓とであり、通常の死亡原因は呼吸不全によるものである。
シアン化物接種による症状は、瀕脈、頭痛、傾眠、低血圧、昏睡、けいれん、静脈血が明赤色になる、などである。


いわゆる「ガス室」は、ほとんどの場合緑色に塗られた八角形で鋼鉄製のドーム付きの小部屋で、完全に密閉する楕円形の扉から中にはいる。
たいていのガス室は2名の処刑ができるように、金属製で座面にガスが通る穴が開けられた2脚の椅子が床にボルトで固定されている。
ガス室内の温度はガスが凝結し、水滴となって壁や床に付いてしまわないように、最低でも華氏80度に保たれている。
ガス室の壁には大きなガラス窓がはめ込まれており、役人やジャーナリストが(30人から60人)そこから処刑の様子を見ることができる。

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ガス室

(このアイデアからガス室には「水族館」というあだ名が付けられた)
処刑の瞬間には内部が強い光で照らし出され、それは衝撃的な光景であるという。

ガス室の使用説明書は20ページ以上にわたり、これは技術的な指示だけではなく、過去の経験を報告し、ガス室で起こりうるすべての事柄が記載されている、一種のガイドブックとなっている。
多少の差異はあるが、「ガス室」による処刑方法はすべての州で同一である。

「処刑の2,3週間前」
刑務所長が死刑囚と接するときに最も気を付けるべきことは、死刑囚を処刑日まで生かしておくこと、つまり自殺防止である。
この欲望に屈しないように、死刑囚は「死の廊下」と呼ばれる専用の舎に入れられ、24時間監視される。
その際、死刑囚は喫煙も書き物も自由(アルコール飲料だけは許可が必要)である。
独房の外においてあるテレビを観ることも許され、観ることのできる番組は、映画、宗教番組、教育番組、天気予報である。

「処刑日の1週間前」
刑務所長は死刑囚に処刑の手順を説明し、死後、身の回りの私物をどうして欲しいか尋ねる。
そして、何人かの処刑立会人(州により違いがあり5人から10人)を招くことも認められていることを死刑囚に告げる。
(新聞記者に対して発言することも可能であることも告げる)
また、最後の食事の希望メニューを尋ねる。
処刑に備えて「リハーサル」を行う州もある。
そのとき、実際に死刑囚をガス室の椅子に座らせて、身長や体重が原因で問題が生じないか調べる州もある。

「処刑の前日か、前々日」
死刑囚は「死の廊下」から出され、「死の控えの間」という別名のついたガス室から数メートルの位置にある、コンクリートの壁に囲まれた幅135センチ、高さ3メートルの独房に移される。
独房の正面は金属の棒が75センチ間隔で縦に13本、薄い鉄板が横に6本並んでいて、互いに溶接された上でボルトで固定してある。

「処刑の数時間前」
通常3つか4つの時計の時刻合わせが行われ、この時計は、刑務所長室、検察長室、「死の控えの間」に置かれる。
同時に、刑務所員がガス室使用に際して最もおそれる技術的な故障が生じないよう、シアン化物を落とすレバー、仕切弁、バンド止め金具の接合部などを念入りに点検される。

「処刑1時間前」
合衆国最高裁と常時連絡を取っている、検事長の部屋から刑務所長室に手続き続行命令の電話が入る。
このとき、最高裁、又は州知事が処刑延期の権利を行使しなければ、手続きはそのまま進められていく。
州知事の判断による処刑の延期は、ガスを発生させるレバーを引くまでは有効である。
よって、刑務所長は死刑執行が開始されるまで、「死の控えの間」の壁にある電話のそばを離れることはない。
死刑執行吏は、刑務所の武器弾薬係から渡されたシアン化物を注意深く量り、2枚のガーゼの袋に500グラムずつ詰める。
この袋を死刑囚が座るガス室の椅子の下の仕掛けにセットする。

「死刑囚が「ガス室」に入る10分前」
死刑執行吏は1リットルの蒸留水に決められた量の亜硫酸を加えた溶液を準備する。
最後に、圧縮空気を注入し、ガス室の気密性を確かめると、4人の看守が「死の控えの間」に死刑囚を迎えに行く。
処刑の際、私物の服を着用できる州もあるが、通常は白いシャツと青いズボンが強制的に与えられる。
この白と青は、ガスの緑と窓の色つきガラスを通して見てもはっきり識別できるように選ばれた色である。

「ガス室」に入った死刑囚は、椅子に座ると、足に2本、腕に2本、腰に1本、胸に1本、そして頭に1本のバンドで固定される。
死刑囚が座る2脚の椅子の下にはそれぞれ混合液を満たす「容器」が置かれている。
容器の真上には先端にフックが付いた長い棒がのびていて、そのフックにはシアン化合物が入ったガーゼの袋が掛けられるようになっている。

ガス室2

医師は死刑囚の心臓の位置に心電図用のセンサーを取り付ける。
心電図によって処刑の進行具合を監視して死刑囚の死を宣告するのは、この医師の役目である。
死刑執行吏は、死刑囚に対して毒ガスが下から上がってきたらすぐに息を大きく吸うように指示を与える。
(息を吸うべきタイミングでうなずいて合図を送ることもある)


「ガス室」による処刑は、死刑囚の積極的行動を必要とする唯一の処刑方法である。
死のガスを深く吸い込めば、10〜15秒で意識を失うが、息を止めたり、呼吸を遅くしたりすれば、死に至る過程はかなり長引くことになる。

「処刑執行手順」
ガス室の鋼鉄製のドアが閉められ錠がかけられ、各役人が持ち場に着くと、死刑執行吏は刑務所長の命令によってガス室の隣の部屋から処刑を開始する。
1,ガス室の気圧を一定にする装置を作動させる。
2,仕切弁を開いて「水」と「亜硫酸」の化合物を放出させ、死刑囚の座る椅子の下の容器に満たす。
3,レバーによりフックを操作して、容器の中に青酸カリの入ったガーゼ製の袋を落とすと、化学反応が始まり、「心地よい匂い」のガスが発生する。
4,医師が心臓停止を宣言すると、処刑は完了と見なされる。
死を確実とするために、死刑囚の体は後30分間ガス室に放置される。

「遺体の除去手順」
1,ガス室の天井にある排出装置によって15分から20分をかけてガスを10メートル超の煙突から大気中に排出する。
2,椅子の下のガス発生容器は、床下の水道管からの水(又はアンモニア)によって洗浄される。
3,ガスが排出された後、ガスマスクを付けた関係者が鍵を開けて中に入り遺体を搬出する。
4,遺体の服を脱がせて(州によっては椅子に縛り付けたまま)水(アンモニア)で洗浄する。(服は焼却処分となる)
5,死刑囚の体だけが霊安室に送られる。

ほとんどの州で、霊柩車の費用、埋葬用衣服は刑務所側が負担する。
それ以外の費用は死刑囚の家族が負担する義務がある。
遺体の引き取り手がない場合は、地元の墓地に番号だけを付けて埋葬する。

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ところで、「青酸カリ」って商標名なんですね。(^_^;)