秋は読書の秋…プレゼント〜
雪の世界
作 ケイ
AM7:10――
男の赤い左手が少女に伸びる。
少女は白い長い髪を振り乱し…逃げた。
「はぁはぁ…」
少女の白い顔に映える紅の唇から、白い世界が吐き出された。
何故、逃げなくちゃいけないの?
あたしは…。
――ガシッ――!
少女の体は、ついに赤い手の男に捕まってしまう。
「白の少女よ、逃げても無駄だよ」
男の薬品臭い赤い口から、白の世界が吐き出された。
男は懐から鋏を取り出し…少女の白い髪を一房切り落とし…。
AM7:21――
少女は、お金である。
生まれながらに白く美しい髪は、誰もが求めた。
白の少女。
――カチャン――
「ご馳走様…」
「もう食べないのか?栄養をつけろよ?!」
赤い手の男。
この男が父親であることを忘れたい。
「…はい」
調度品が目に入る。
私の髪で買ったもの。
ふと周りを見る。家…邸宅…豪邸…何とでも呼ばれる。
私の髪で買ったもの。
少女は牢獄に入った。
大きなベット。
大きな鏡。
大きな熊のぬいぐるみ…。
私の髪で買ったもの。
――カチャン――
少女は手のひらを見た。
そこにあるのは、少女の髪で買われたナイフ。
これで全てを終わらせられる。
少女は、少女の髪で買われた大きな鏡台に座る。
開放されるために…。
そして白の世界に銀の存在が滑り込んだ。
――ジャリ――!
パサ――。
白が少女のもとから落ちていく。
銀が動くたびに白は少女の肩に、膝に、床に、降り積もる。
ジャリ――シャリ!
パサ…バサッ――!!
止まることはない。
迷うことはない。
しかし…少女の瞳からは白の雫が落ちていった…。
AM7:47――
少女の髪で買われた、大きな鏡台。
その鏡台は、しかし、少女の髪を映すことはない。
少女は、鏡に映る自らの頭を撫でた…。
指に絡みつくものは…なにも…ない。
ただ無機質に、少女の手のひらを冷たくする。
これで…いいの…。
AM7:57――
「あ…ぁあ…ああああああ?!?!」
父親の赤い手が、少女の小さな頭を鷲掴んだ。
そこには…切るべきものが…ない。
金が…金が…ない!
赤い手が、つるり…と滑り落ちる。
少女の白い目と、
父親の白い目は、
まったく違う輝きをもって、交錯した。
果たして、誰が…誰か幸せになれたのだろうか…?
AM8:07――
大きな鏡台の前に降り積もった白い髪を少女は拾い集めている。
少女が、少女として生きていくために…。
少女の白く美しい髪は、お金だったのだ…。
その中に、果たして、どれだけの価値があるものなのか…、
白い雫は降り積もり続けた――。
――了――
後書き
ぴったり一時間で書き上げました!
う〜ん、しかし近頃、この展開好きですな〜!登場人物の名前を出さない、さらにほとんどの描写をわざと抑えて書く。…一応、詩を意識して書いてみたのですが…どうでしょうか?
ちなみにこの中で出てくる時間は、現実時間とリンクしていたりして(笑) |