版権物8 羊のうた
作 ケイ (一)
いつもの発作が一砂を襲う…。
目の前が赤くなる。
血の色だ――。
体の奥底からこみ上げてくるものを必死に抑えようとする。
「ぅ…くぅ――!」
脳裏に二人の女性の姿がよぎる――。
一人は同級生の八重樫…。
彼女は、何故か“血”を連想させる。
一人は千砂…実の姉…。
ドックン!
血が騒ぐ――!
自らの腕を裂き、血を与えてくれようとする姉。
差し出された腕の先には寂しげな…それでいて、自分を受け入れてくれる“女”の表情(かお)をした千砂がいる――。
ドクン!
「はぁはぁ…」
一砂は、自らの腕に噛み付き血をすすった。
気休めにもならないことは分かっている。
「俺は…俺たちは…」
それでも生きている意味があるのだろうか…。
今まで幾度となく繰り返してきた問い…。
一砂は、まだその答えを見出せないでいた。
…いや、一つ…答えを知ってはいる。
しかし、それを実行に移すだけの勇気を一砂はまだ持っていないのだ。
千砂と二人で生きていくという想いを…。
(二)
「ただいま…」
高城の門をくぐる。
おじさん、おばさんのもとを離れ高城の家で暮らすようになり、だいぶ経つ。
発作も少なくなり、少しは気が楽になっていた。
そして・・・。
「おかえりなさい」
和服に身を包んだ姉・千砂が優しく出迎えてくれる。
しかし、一砂にとって、この優しさが辛かった。
千砂は、一砂を父親の身代わりとして見ている。
一人の男として見ている。
怖かった。
実の姉を、自分も、一人の女として見てしまいそうで、怖かった。
千砂は、綺麗だ。
久しぶりに会った、と言っても以前一緒にいた記憶などない姉。
そんな人間を“姉”だと思うことの方が無理だ。
白く、細い首筋。
気が強そうな瞳は、しかし儚い。
折れてしまいそうな身体。
そして、美しく長い黒髪。
ドクン――!?
突然の眩暈に視界が赤く染まる。
いつもの発作とは違う。
赤く染まった視界は、一瞬にして暗転してしまった。
(三)
ピチャ――。
「・・・ぅ」
額に何か冷たいものが乗せられる。
「一砂・・・?」
うっすらと視界がよみがえると、その視界いっぱいに黒いものが広がった。
千砂の髪だ・・・。
千砂の髪の香り、柔らかい絹のごとき黒髪に手を伸ばす。
「・・・千砂・・・?」
「よかった・・・」
千砂の黒い瞳が潤んでいる。
そんなに心配をかけたのだろうか?
髪に添えた手に、千砂の細い指が絡められた。
「・・・どれくらい――!?」
体を起こす。
と同時に千砂の唇が、一砂の言葉をさえぎった。
ズキン――!
千砂は、姉だ。
千砂は、女だ。
唇が離れた。
二人の間に一筋の糸がひく。
その糸が切れぬ前に、二人の唇は、また重る、今度は一砂から――。
「一砂・・・」
和服の帯が解かれると、形のよい乳房が露出する。
ズキン。
「・・・っ!」
乳房に舌を這わすと、千砂の身体が小さく震える。
ピンク色の小さな乳首を口の中で転がし、軽く噛んでやる。
ズキン。
否。
力がこもる。
「――ツッ!?・・・一砂、もっと優しく・・・」
ズキン。
しかし、その言葉は一砂に届いていなかった。
ズキン。
ズキン。
ズキン。
・・・ズキン!
・・・何時の間にか、千砂を押し倒していた。
「一砂、お願い・・・今日は・・・」
今日じゃなければいいのか?
和服の裾をめくると、淡い茂み。
薄いのだろうか・・・?
はじめてだから、分からない・・・。
八重樫は?
こんな時に・・・
こんな時まで・・・!!
ズブ――!
「あぐぅ!!・・・い・・たっ・・・」
「え?」
千砂が泣いている?
何故?
・・・。
一砂は、はっ、と我にかえった。
千砂の股から一筋の血が流れている。
「は・・・はは・・・」
知らず笑いが漏れてしまう。
笑わずにはいられなかった。
「一砂・・・?」
「千砂・・・ごめん・・・」
「・・・どうして・・・謝るの?」
「・・・姉弟なんだ・・・姉弟なんだから・・・!」
「・・・でも」
「駄目なんだ・・・千砂を女として・・・見たくない・・・なのに!」
弟の苦悩はよく分かった。
・・・何故なら、自分もかつては・・・。
千砂は、そのまま手を伸ばし、看病に使っていた医療箱の中から鋏を取り出した。
「・・・切って」
「・・・」
一砂は、黙って鋏を受け取った。
二人の間にそれ以上の言葉はいらない。
私の“髪”を切って・・・。
千砂の“女”を切る・・・切ってしまおう・・・。
ジャキン――!
黒髪が散る。
一砂は、ただ美しき黒髪を切り続けた。
(四)
月日は流れ・・・。
「大丈夫?」
髪をショートにした少女が、一砂の顔を覗き込んだ。
八重樫だ。
「あぁ・・・しかし勉強遅れちまったなぁ・・・」
一砂は深刻そうに言った。
しかし、その姿に以前の暗さはない。
そう、目覚めた彼は記憶を失っていました。
「じゃ、先生、お世話になりました」
「・・・あぁ・・・気をつけて」
千砂さんは・・・亡くなったそうです。
彼は、その事実を・・・いいえ、その存在自体、覚えていませんでした。
「ん?どうした?」
「・・・ううん、なんでもない!」
それでいいのか、私には分かりません。
――でも。
(五)
「ただいま・・・」
水無瀬は言った。
返事は・・・ない。
「一砂くんは退院したよ」
自力で身体を起こすことも出来ない“それ”はキツイ視線を水無瀬に返した。
「大丈夫・・・彼はもう、一人でやっていけるさ」
そろそろ薬の時間だ。
水無瀬は、“それ”の口を無理やりこじ開け、柔らかい入れ歯を取る。
自殺防止の為に歯は全て抜いてしまった。
しかし、それではせっかくの美貌が台無しなので、歯の役割を持たない形だけの入れ歯をしたのだ。
そしてピアスのされた舌に薬を乗せ、飲み込ませる。
いや、死にたがっている“それ”は薬を飲み込まずに吐き捨ててしまった。
「駄目じゃないか・・・薬はちゃんと飲まなくては」
言いながらズボンのチャックを開け、ペニスを出すと無理やりくわえさせる。
「ほら、飲んで・・・」
ジョ・・・ジョオォォーーーー!!
「ふごぉ?!」
“それ”は苦しそうな悲鳴をあげながらも、薬と一緒に飲み干していく。
「・・・いい子だ」
・・・。
いつしか、“それ”のお腹は大きく膨れていた。
子を宿したのだ。
死にたい・・・。
死ねない・・・。
「くっくっく・・・ぁあ、“千砂”・・・これからもずっと・・・」
頭ほどに大きさに膨れた乳房。
黒ずんで肥大した乳首は、ちゃんと母乳を出してくれるだろうか。
出産は問題ない。
だって、腕が二本とも入ってしまうほどに拡張されたから・・・。
でも、赤ちゃんは抱けない。
腕がないから。
大きくなった時、一緒に歩くこともできない。
足がないから。
それ以前に、赤ちゃんは私を見てくれるかな?
豚のように潰された鼻。
身体だけでなく顔面にまで施された刺青。
醜い・・・私・・・。
「そうだ・・・子供の名前は何にしようか?」
「一砂・・・」
――了――
後書き
あ・・・疲れ。
相変わらずエロくないですね。
どうでもいいですが、動物好きです。
犬とか猫とか・・・もちろん豚も。
つーことで、また豚鼻でラストです。
おしまい。 |