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断首刑(装置)

改良史

議会が採択した法案が「万人に対して同一の処刑を実施する」ことを定めていたため、地方での死刑においても、共和国の役人たちがギロチンを運搬車に積んで移動し実施することになった。
そのため、地方の役人、受刑者、死刑の観衆たる民衆は、死刑決定から実施まで長らく待たされることになり、各地の裁判所は専用のギロチンを要求した。

1793年6月13日
政令でギロチンの配備数が各県に1台、すなわち83台に規定された。

試作機を製造した先駆者としての強みを持つ「トビアス・シュミット」は製造の独占権を要求し、レドレル執行部総代理、ルイ医師の後ろ盾もあり獲得した。
しかし、シュミットのクラブサン(英語名ハープシコード)製造工房は、半工業的注文の応えられる設備を備えていなかった。
シュミットは「ギロチン」製造に追われ、契約条件に記した物よりも質の劣る機械を売り、欠陥がいくつか公になったため、この新たに現れた、巨額な公共機材調達市場に多くの業者が参入しようとした。
中でも「ノエル・クレラン」という男は、赤の塗装込みの「ギロチン」を500リーヴルで製作すると申し出て、シュミットから独占権を奪う寸前までに至った。

いろいろと思案したレドレル執行部総代理は、建築家の「ジロー」に、シュミット機の長所と短所に関する詳細な報告を提出するように命じた。
ジローは報告書で、「製造を急ぐあまり、本来可能な性能の良さと使いやすさが損なわれている」とシュミットを養護した上で、「ギロチン初号機」の改良を「勧めて」いる。
1,現在は木製である、レール、さね、回転装置は金属製にするべきである。
2,重しを吊す縄をかける鉤は丸頭釘で固定されているが、ナット付きの頑丈なボルトで止めるべきである。
3,何か不都合が生じたときの予備として、1台の機械に刃をつけた重しを2つずつ備えることが不可欠である。
そして、報告書の締めくくりに「こうした改良と必要部品すべての取り付けを1台につき500リーヴルで行うのであれば、製作者変更、排除する必要はない。」と勧告している。
実際シュミットはギロチンの製造独占権を維持し続けた。

1794年
シュミットは「ギロチン」を「縦枠のレールを銅製にする、落下システムを半機械式にする」などの改良を施したが、発明家、建設業者などが、彼から「ギロチン」製造独占権を奪おうとし続けていた。

ボルドーで「ビュルゲ」という大工が、特別軍事法廷院長の命により刃が4枚ついた「ギロチン」を製作した、が、「使用されること」は1度もなかった。
刃が9枚の「ギロチン」も「ギヨ」なる機械工により製作され、ビセートルで実験されたがレドレル執行部総代理を「満足」させる結果は得られなかった。

1794年
シュミットの「1枚刃のギロチン」の性能がよいとはいえ、数多くの死刑囚の処刑を執行するには効率が悪かったことは事実で、法案に反して、銃、大砲、溺死による何百人単位の処刑がたびたび行われるようになっていた。

そのころ、断頭後に死刑囚の意識が存続する可能性の問題が議論されるようになり、科学者であり、動物学者、人類学者である「フランツ・F・B・ルイツイザン」教授が、動物実験を何度も行った結果として、2つの大脳半球を一刀両断にする補助刃を備えた「ギロチン」の作製を提案した。
さらに、「脊柱を貫き、脊髄を切断する、あるいは出血を早めるために大動脈を切断する補助刃をつけてもよいだろう」と語っている。
この「補助刃付きギロチン」試作機の制作費用は自分で持つとルイツイザン教授が請け合ったにもかかわらず、執行部は関心を寄せなかった。

こうして、いろいろな人々の思惑と「1枚刃のギロチン」の性能によって、シュミットの利権は「守られ」続けていった。

1870年
司法大臣「アドルフ・クレミュー」が、「ギロチン」を台座からはずし、地面に直接置くように政令で命令した。
これには「我々は豚のように地面すれすれで死ぬ筋合いにない!」と、人間としての誇りに駆られた新聞記者たちから一斉に抗議と、憤慨の声が挙がった。

1871年4月
「失墜した忌まわしい政府が金を出して注文した」2台の新しい「地面に置かれた断頭機」は、ヴォルテール広場で「君主制の支配に隷属した道具」として「清めを行い新しい自由を聖別するため」、パリ・コミューン参加者によって燃やされた。

1872年
「ギロチン」を灰の中から復活させるため、司法大臣が新しい機械の製作を、死刑執行吏助手兼家具職人「レオン・ベルジェ」に命じた。
ベルジェは、「ギロチン」に特筆すべき改良を加えた。
1,刃の落下衝撃の緩和。
2本の縦枠の下方に、刃の落下による「ギロチン」に加えられる衝撃を緩和するためのバネをつけた。
後に、バネに変えて円筒形のゴムがつけられたが、これによって有名な「ギロチンの音」が変わった。
2,落下始動システムの変更
刃をつけた重しの上部につけられた鏃型の金属の突起が、「ギロチン」の最上部につけられた「開閉装置」に挟み込むようにはめ込まれる。
小さなレバー(後には単なるボタン)によって開閉装置を開くと、鏃形突起が外れ、刃付き重しが落下する、という仕組みであった。
3,刃の稼働機構の潤滑化
縦枠の溝を滑る重しに、「キャスター」を取り付けることで、スムーズに落下するとともに、レールの摩耗を防ぐことになった。
4,執行後の処理の迅速化
「ギロチン」は直接地面の上に置いた厚板の上に立てられることになり、傍らには亜鉛とオイルクロスで覆った柳の籠が大小2個置かれた。
処刑後、受刑者の頭部と胴体を入れるための物である。


「ギロチン」は、この改良以後は、ほとんど変更らしい変更は加えられていない。
断首刑(装置)6
このページにイラストが無くて申し訳ないです。

「断首刑(装置)7」へ続きます。
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