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磔刑 |
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最も一般的にこの「はりつけ」に使われた道具は、木製の地面から垂直に立てられて、地面に固定された縦棒と、取り外し可能な40キロから50キロほどの重さの横棒からなる十字架が使われた。 「はりつけ」の受刑者は丸裸にされ、受刑者の着物はローマ兵士たちが分け合うのが慣例となっていた。 十字架にかける刑罰は、エジプト人、ヘブライ人、カルタゴ人、フェニキア人、ペルシア人の間で用いられ、マケドニア、 ギリシャ、ローマ帝国では、もっぱら奴隷、または、特に不名誉な刑罰を科す必要のある重罪人に対して行われた。 処刑用の十字架は、2本ないし3本の柱を組合わせて作られて、(中には四角十字架という4本の柱を用いたもの もあったが)T字、X字、Y字の十字架があった。 T字十字架は、上下さかさまに立てられることもあり、その場合罪人は頭を下にして十字架にかけられた。 これは、キリスト教徒がキリストと同じ形で磔にされるのを恐れ多いと考えたからだという考えが一般的だが、実際の ところは純粋に技術的問題から生じたものである。 ぬかるんだ地面などでの十字架設置作業は困難が伴い、また、多人数が必要となるが、逆さに立てれば、腕木が 地面に近いところにあるので、もし倒れかけても腕木が地面につき、安定させることが容易なためだったという。 ローマ、ギリシャ、オリエントでは、磔刑を宣告されたものは鞭打たれた後、処刑場まで自分の十字架を運ばなければ ならなかった。 正確には、十字架の上の部分の柱(腕木)を運ばされる。(キリストが十字架全体を背負っている絵などは誇張があると思われる) 垂直の柱は、死刑囚と刑吏(死刑執行人)が到着したときには、すでに地面に立たされているのが普通であった。 処刑場に着くと死刑囚は腕を左右に広げた状態で仰向けに寝かされた上で、取り外し可能な腕木(横棒)に縄で、また釘でに固定され、縄と滑車を使って地面に立っている柱の上に引き上げられたのち、両足を縄で固定、または釘付けされる。 |
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処刑場でない場所では、地上で囚人を十字架に固定したのちに、十字架全体を立てることもあった。 囚人を固定する釘は、手のひらに打たれることはなかった。 手のひらは簡単に裂けてしまい囚人の体を支えることが出来ないからである。 経験豊な刑吏ならば、「デストの空間」と呼ばれる手首と手首の間あたりの骨に囲まれた狭い空間に釘を打ちこむ。 経験のない刑吏でも、この25センチから30センチほどの長さの釘を、手首の橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)と手のひら付け根の手根骨(しゅこんこつ)との間に打ちこむことによって、十字架に強固に固定することが出来た。 この釘の打ち込み位 置から、解剖学的に幾つかのことが分かる。 まずこの位置に釘を刺すことによって、体重が掛かるとき受刑者が手のひらの脂肪により、抜け落ちてしまう事を防げた。第二に、この位置に釘をさすと、上腕から手に降りてくる神経のうちで一番大きな神経束である正中神経(せいちゅうしんけい)に釘が刺さることになる。 焼け付く ような激痛に加え、永久に手の機能を喪失することになることから、この神経束を傷つけることは、医学的に致命的で傷と、みなされている。 この方法なら、出血が最小限に留められ、更に一本の骨も折らずに済んだ。 足は、片足ずつ並べて、両足を重ねて、両足を開いて、などさまざまな方法で固定(釘で固定)された。 ひざは約45度に曲げた状態で、更に足首はすねから更に45度ほどの角度で、十字架の縦棒と平行になるように固定され、手首と同じ25センチから30センチの程の巨大な釘を、足の甲側から第二と第三指の骨の間に打ち込んで固定した。 釘をこの位置に刺すと、足の裏に位置する主要血管の損傷につながり、多少の出血があるが、致命的なものではない。 ローマ方式では、両足を重ねて横に向け、釘打たれたので、罪人は体をねじる格好になった。 なお、宗教画でよく目にするように、柱にとりつけられた台(板)によってかかとを支えるようなことはなかった。 これは、台をにより死刑囚が体を支えて、自発呼吸を続けることが出来るからである。 つまり、磔で人間が死ぬ原因は、飢えや渇き、出血によるものではなく、窒息によるものである。 受刑者は、ひざを45度に曲げられているため、ももの筋肉で全体重を支えることになり(ひざを45度に曲げて5分程 立ってみれば分かるように、ももの筋肉で全体重を長い間支えるのは、不可能に近い)、ももの筋力が低下すれば、今度は体重が神経の損傷によって麻痺している腕と肩にかかる。 結果、十字架にかけられた後数分で、肩が関節から外れ、更にその後数分で、今度は肘(ひじ)と手首の関節が外れ(この3つの関節が外れることにより、受刑者の両腕は、20センチから30センチほど長くなる)、さらに、大部分の体重が胸部にかかり、これによって肋骨は伸びきり、常に息を吸った状態に釣り上がる。 すべての筋肉が激しく収縮し、横隔膜を動かすことが困難になり、呼吸困難に陥る。 これらの現象が続くことによって、受刑者は必要な肺の運動をできない態勢にあるため、血中酸素濃度が低下し、血中二酸化炭素濃度が上昇する。 これに対し、体の呼吸器と循環器を最大活用して、低下している血中の酸素濃度を補給し、二酸化炭素を排除しようとするため、自然と心臓の活動が活発になるが、心臓の運動量が上昇すればするほど、体内の酸素需要量が上昇するという、深刻な悪循環が引き起こされてしまう。 この状態が数時間続くと、心筋の疲労により心拍数が低下しはじめると同時に、肺の機能の低下によって肺内に水が溜りだし、これによって更に酸素供給が困難になる。 そして、出血と頻呼吸によって、極度の脱水症状、肺機能の停止、心停止、酸素供給不能などが重なり、受刑者は死に至る。 また、心臓の極度の疲労により、心臓が破裂することもある。 窒息を早めるために、死刑囚の脚に重りをつけたり、足を打砕いたりして、さらに体を支えられなくすることもあった。 受刑者の脛(すね)の骨を折ることで、数分の間に受刑者を死亡させることが可能だった。 反対に、「はりつけ」刑はその見せしめ的性質のため、この死へのプロセスを遅らせる目的で、小さな木箱の腰掛けを十字架につけ、受刑者がそこに腰掛けることによって、いくらか呼吸をできるようにしたこともあるという。 これにより、時に9日間も十字架の上で苦しむ受刑者もいたという記録が残っている。 ローマでは、死亡確認は死刑囚のわき腹を槍で突くことで行われた。 つまり磔刑で最後に槍で突くのは、殺すためでも、苦痛を増幅する(反対に一思いに殺す)ためでもなかった。 死体は、完全に腐乱して落ちるまで、十字架の上に放置されたが、当局が死刑囚の親族や友人に遺体を葬ることを認める場合もあった。(死刑囚の地位が高い場合?) |
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磔刑5なるほど、台がある場合はただの見せしめ刑であり、死刑ではないってことですねぇ、確かに懸垂中は楽に呼吸できないですものね。(^_^;) でも、逆さの十字架では少し違うかも?<長い間逆さになれるので、頭の血管が破裂するとか。それより宗教的意味が大きいか? なお、今回のコラムでは、中国の磔についての資料が少なく、一行のみの記述しか、できなかったことをご了承下さい。m(__)m 日本と西洋では、最後の死に至る方法に違いがあるのがおもしろいですね。 「磔刑」の項はこれで終了です。 次へ進むと「引き裂き刑」へ続きます。 |
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